• 家族・転職・アイドルのことなど
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    私の母は今年で65歳になる。
    28歳で結婚した後、ずっと専業主婦で、私が家を出た後に数年パートをしたこともあったようだが、基本的には家にずっといた人だった。
    ずっと家にいて夫(私の父)と子ども(私と弟)と、近所に住む両親(祖父母)の世話をしていた。楽しみといえば近所の仲の良い人とおはなしをするくらい。

    私が子どものころは、そんな感じの専業主婦は珍しくなかった。というか、近所はそういうお母さんばっかりだったと思う。少なくとも、子どもの目からはそう見えた。
    実際はよくわかんないんだけど。

    そんな母は、数年前までよくいる「デジタルについていけないおばさん」だった。パソコンの使い方も、スマホも持っていない。携帯電話はパカパカだし、ラインもできない。用事があれば電話してきていた。
    別にそれで困ったことはなかった。電話使えるし。

    でも私が使わなくなったスマホを母にあげてから、母はすごく変わった。
    ラインができるようになったし、ニュースなんかもスマホで見るようになった。
    ネットの嘘か本当かわからない情報を拾うようになったのは焦ったけど、私と弟で「ネットの情報は嘘も多い」と繰り返し伝えた。

    ある日、母の暇つぶしになるかと思って、母のスマホにTVerのアプリを入れた。

    母はドラマはまぁ見るほうだし、お金もかからないし。
    母は今働いてなくて、時間もあるから十分楽しめるだろうと思った。

    始まりは、母がとあるドラマにハマったことだった。
    多分20年前くらいのドラマで、当時けっこう話題になっていたドラマだったと思う。TVerって昔のドラマとかもたまに見れるようになってるみたいで、母は何気なく、そのドラマを見た。
    そして「藤木直人」さんにハマったのである。

    藤木直人さんは、有名な俳優さんで、私も当然知っている。
    「この人、すごくかっこよくない?」
    という母に「そうだね、かっこいいね」とかえした。

    確かにかっこよかった。男前だった。
    なんかはしゃいでるな、と私は思った。

    次に実家に帰ったとき、母に「見て!」とスマホの待ち受け画面を見せられた。
    藤木さんの写真だった。
    画像ガビガビの。

    ドラマの画面をスマホで写真に撮ったようだった。私は、もうちょっと良い画像ないのかなぁ…と思った。

    私はその日、別のドラマを母に進めた。TVerのオリジナルドラマだった。次に会った時、そのドラマが芸能界を舞台にしたドラマだったので芸能事務所のシーンがあるんだけど、
    それが藤木直人の事務所だとかなんとか言っていた。
    私は、「お母さん、いつの間に藤木直人さんの事務所なんて調べたんだろう…?」と思った。

    実家に帰ったら、毎回藤木さんの話をされるようになった。
    「ファンクラブとか入らないの?」と聞いたら、「ファンクラブなんて入っても、ライブとか行かないしねぇ…」と言っていた。体力的に心配なので、ライブはちょっと行けないということだった。

    弟に頼んで、何かの配信サービスに入会していた。
    藤木さんのドラマで、見たいものがあるそうだ。「あ、ついに藤木さんに課金した」と私は思った。良いことだ。

    わが家は弟の部屋からWi-Fiが飛んでおり、母の部屋は弟の部屋から遠いのでWi-Fiが拾えなかった。今まで、母はドラマが見たい時は弟のいないときに弟の部屋に行ってスマホでドラマを見ていた。
    母は部屋を移した。Wi-Fiが拾える部屋に昼間ほとんどいるようになった。

    私にドラマの中の藤木さんがかっこいいシーンを見せるようになった。
    「ここ!ここがかっこいいの!」
    オタクって、「ここ!」って言うよなぁ…。
    好きなシーンだけ繰り返し見ているらしい。

    「このドラマっていつのドラマ?」
    と何気なく聞いたら、母の手作りの年表が出てきた。
    年表を作るタイプのオタクだった。

    「お母さんファンクラブ入ったの!年会費4500円(だったかな、たぶん)って安くない?ほとんどタダだよね」
    ファンクラブ入らないって言ってたじゃん…。ほとんどタダとか言い出した…。

    またドラマを見せられる私。
    「このドラマっていつの?」とまた聞いてしまう私。
    母がごそごそしだしたから、あ、年表でてくる!と思ったら、Wikipedia印刷したやつが出てきた。見たドラマには蛍光ペンでチェックがしてあった。

    「ライブの申し込み方わからないから、してくれない?」と頼まれた。
    ライブ行かないって言ってたじゃん…。
    藤木さんへの愛が、足腰の不安を凌駕した…。

    「当たるかな?もし当たらなかったらDVD買おう…」
    オタクあるある、当落前不安定。(当落1か月前)

    「FC先行で地元のライブに当たらなかったら、広島に行こうかな?FCのツアーがあるらしくて…」
    母は遠征について考え始めていた。


    私が知る限りこんなに何かに夢中になっている母は初めてだ。
    母は家事が好きで、料理や裁縫が趣味と言えるくらいだったけど夢中っていうほどではなかったし。
    昔はよく買い物に出かけたりしていたけど、ここ数年それもあんまりなくなって、家にずっといた。週に一回、ヨガ教室に行くくらい。

    話題は近所の仲良しの人の話とか、終活の話とか。
    終活の話ばっかりする母親きついよ、ほんと。

    それが、最近では藤木さんの話ばっかり。
    藤木さんの話して、ずっとニコニコしてる。ドラマのこの場面がかっこいいとか、次はこれが見たいとか、本当に楽しそうに話している。

    本当に推しを見つけるってすごいなぁと改めて思いました。
    藤木さんがいるだけで、母はこんなに活き活きしているんですよ。毎日家でぼんやり過ごしているだけだった母が、すごくアクティブになって数十年ぶりに髪を伸ばして(よくわからないけど、そんな気分になったらしい)なんだか恋している気分になっているらしいんですよ。(横で父が微妙な顔で聞いていた)
    本当に、藤木さんには感謝しかないです。

    勝手ながら、私の母のためにも、これからも末永くご活躍していただきたい。

    今週当落なので、ぜひ母にライブのチケットが当たってほしいと思っています。
    (当たったら私も行きます)